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東京地方裁判所 平成7年(ワ)17857号 判決

原告

中谷誠

被告

東海自動車株式会社

主文

一  被告は、原告に対し、金一七七万三一二九円及びこれに対する平成六年三月一一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は、これを二分し、その一を原告の負担とし、その余は、被告の負担とする。

四  この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

一  被告は、原告に対し、金三七五万八六〇五円及びこれに対する平成六年三月一一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  訴訟費用の被告の負担及び仮執行宣言

第二事案の概要

一  本件は、自動二輪車を運転中、被告の保有するタクシーと接触転倒して負傷した原告が、被告に対し、損害賠償を請求した事案である。

二  争いのない事実及び証拠により容易に認定できる事実

1  本件交通事故の発生

原告は、次の交通事故(以下「本件事故」という。)により、右鎖骨骨折挫創、右大腿・膝・下腿・左母指挫創等の傷害を受けた。

事故の日時 平成六年三月一一日午後二時〇八分ころ(甲一)

事故の場所 東京都港区南青山六丁目九番先路上(通称六本木通り)

加害車両 普通乗用自動車(品川五五く五九九一)

右運転者 訴外黒田光男(以下「黒田」という。)

被害車両 自動二輪車(一品川は四五四五)

右運転者 原告

事故の態様 直進中の被害車両と、後方から進行してきた加害車両とが接触し、被害車両とともに原告が転倒した。なお、事故の詳細については、当事者間に争いがある。

2  責任原因

被告は、加害車両を所有し、これを自己のために運行の用に供していたものであるから、自賠法三条に基づき、原告に生じた損害を賠償すべき責任がある。

3  損害の一部填補

原告は、自賠責保険から二六万八一六〇円の填補を受けた。

三  本件の争点

本件の争点は、本件事故の態様(過失相殺)と原告の損害額である。

1  本件事故の態様(過失相殺)

(一) 原告の主張

本件事故は、後方から走行してきた加害車両が、併走中の被害車両の右ハンドルと接触し、被害車両のハンドルが左に振られ、被害車両の前輪が加害車両のドアに接触して原告が転倒したため、生じたものであるから、もっぱら黒田に過失がある。

(二) 被告の主張

本件事故は、原告が一時停止せず、右後方の安全を十分確認しないまま、加速して急に本件道路に進入したため、発生したものであり、原告には、少なくとも四〇パーセントの過失があるから、原告の損害額を算定するに当たっては、原告の右過失を斟酌すべきである。

2  原告の損害額

(一) 原告の主張

(1) 治療費 合計一六七万四二二八円

(2) 入院雑費 二万二一〇〇円

原告は、平成六年三月一一日から同月二七日までの一七日間宮島病院に入院した。一日当たり一三〇〇円として、その一七日分。

(3) 通院交通費 六万五五二〇円

宮島病院分 九八四〇円

おきつ整形外科分 五万五六八〇円

(4) 文書(診断書、印鑑証明)費 一万三二〇〇円

(5) メガネ代 五万五〇〇〇円

(6) 休業損害 四八四万〇九〇八円

原告は、本件事故当時、訴外株式会社オフ・ワーク(以下単に「勤務先会社」という。)に勤務し、日給月給として一日当たり二万〇一七〇円の収入を得ていたものであるが、本件事故により事故日から平成六年七月二六日まで一四三日間分の休業を余儀なくされたものであるから、その間の原告の休業損害は、右金額となる。

(7) 慰謝料 一五四万〇〇〇〇円

(8) 弁護士費用 三六万〇〇〇〇円

(二) 被告の認否

原告の損害額については、いずれも争う。

第三当裁判所の判断

一  本件事故の態様(過失相殺)について

1  前記争いのない事実及び証拠により容易に認定できる事実に、甲三の1、2、四の1ないし8、五ないし一〇、一一の1、2、一二の1ないし17、八、一九、二六、乙一、三の1ないし6、四の1、2、五、六の1ないし3、七の1ないし7、証人石橋弘之、同黒田、原告本人、弁論の全趣旨を総合すれば、次の事実が認められる。

(一) 本件道路(通称六本木通り)は、片側四車線、車道幅員九・七五メートル(各車線の幅は、第一車線一・五メートル、第二車線二・七五メートル、第三車線二・六メートル、第四車線二・八メートル。)の歩車道の区別のある幹線道路であり、最高速度は毎時六〇キロメートルに制限されている。

本件道路の路面はアスファルトで舗装され、平坦であり、本件事故当時、乾燥していた。

本件事故現場付近の道路は直線であり、前方及び後方は二〇〇メートル程度まで見通すことができ、良好である。

本件道路の交通量は、多い。

(二) 原告は、平成元年四月から、バイク便の運転手の仕事をしており、平成三年ころ、勤務先会社にアルバイトとして勤務し、本件道路の状況はよく知っていた。

原告は、本件事故当時、荷物の受取先である渋谷区神宮前に向かうため、歩道上に停車させていた被害車両を運転し、本件道路の第一車線を進行しようとしたが、駐車車両(ワゴン車)があったことから、第二車線に進入後、いったん停止して、後方を確認したものの、特に危険を感じなかったため、発進して第二車線の中央付近を時速約一〇キロメートルで一〇メートル程進行したところ、不意に後方から進行してきた加害車両と接触し、ハンドルが左に切られた状態となり、バランスを崩して右側を下にして路面に転倒し、その際、右足が被害車両の下敷きになった。

原告は、右後方を確認した際、加害車両の存在に気づかなかった。

原告は、本件事故当時、本件道路の進路前方約二〇〇メートルの交差点を左折するつもりでいた。

(三) 黒田は、昭和三五年からタクシー運転の業務に従事し、被告会社には、昭和五五年に入社し、本件道路の状況もよく知っていた。

黒田は、本件事故当時、乗客を乗せて港区西麻布に向かうため、加害車両を運転し、本件道路の第二車線と第三車線を跨ぐようにしながら時速約五〇キロメートルで進行中、被害車両を追い越した際、これと接触し、被害車両とともに、原告を本件道路上に転倒させた。

本件事故後、黒田は、乗客から路面に被害車両の運転手が転倒していると言われたことから、第一車線に車線を変更し、加害車両を停車させた。

黒田は、本件事故当時、乗客から指摘されるまで、被害車両と接触したことに気づかず、被害車両との接触箇所もわからなかった。

加害車両の目的地は、本件事故現場のかなり先であった。

本件事故後に実施された第一回実況見分において、黒田が指示した本件事故の接触地点から停車地点までは、約四三・二メートルの間隔があった。

本件事故により、加害車両には左フロントドア(二箇所)に被害車両のタイヤ痕が、また、左リアウインドから左リアフェンダーに掛けて、及びリアトランク左端部に擦過痕が残っていた。

(四) 被告は、本件事故は原告が一時停止を怠った上、加速して急に本件道路に飛び出したため発生したものであると主張するが、乙三の1ないし6、証人黒田、原告本人によれば、本件事故前、被害車両と加害車両とは一時並進状態にあり、本件事故が被害車両発進直後の事故とは認めにくいこと、加害車両に生じた被害車両との接触箇所は、専ら車体左側面のタイヤ痕と擦過痕であり、その部位及び形状から被害車両の急加速中の事故であるとするには十分符合しないこと等からすれば、被告の主張は、採用できない(なお、証人黒田によれば、黒田は、被害車両の動静について、ほとんど認識をしていなかったことが窺われる。)。

そして、原告本人によれば、本件事故の接触により被害車両のハンドルが左に振られた状態となって被害車両がバランスを失い、被害車両と原告が転倒したものと認められるところ(右認定を覆すに足りる証拠はない。)、本件事故当時、原告が自らハンドルを左に切るべき事情は他に認められず、また、被害車両と加害車両との前記速度差等に照らすならば、本件事故は、加害車両が被害車両を追い越しざま、これと接触したことにより発生したものと推認される。

2  右の事実をもとにして、本件事故の態様(過失相殺)について検討するに、黒田は、本件道路の第二車線と第三車線を跨ぐようにして加害車両を運転中、被害車両を追い越しざま、加害車両の左フロントドア付近を、被害車両の右ハンドルと接触させて被害車両とともに原告を路面に転倒させ、原告に傷害を負わせたものであり、安全運転義務違反等(左側方の安全確認不十分)の過失があるから、本件事故発生についての主要な責任がある。

他方、原告としても、路外から本件道路に進入するに当たり、右後方から加害車両が接近してきているのにかかわらず、その安全を十分確認することなく、漫然進行した点に過失がある(原告は、法廷において第三車線を進行中の車両が何台かいたことは確認したと述べるが、証人黒田によれば、加害車両は、本件道路を一〇〇メートル以上にわたり、前記のような態様で走行してきており、また、原告の発進後、本件事故発生までの経過時間に照らすならば、原告が本件道路の右後方の安全を十分確認していれば、容易に加害車両を認識できたものというべきである。)。

そして、原告及び黒田双方の右過失を対比すると、その割合は、原告一五、黒田八五とするのが相当である。

二  原告の損害額

1  治療費 合計一六七万四二二八円

甲二一 (労災保険による療養補償給付及び薬剤費合計として九八万二三八八円)、乙八の1、2(宮島病院入院分及び通院一日分として六九万一八四〇円)により、認められる。

2  入院雑費 二万二一〇〇円

甲二の1、乙八の1によれば、原告は、平成六年三月一一日から同月二七日までの一七日間宮島病院に入院したことが認められ、入院雑費は、一日当たり一三〇〇円と認めるのが相当であるから、その一七日分として右金額となる。

3  通院交通費 五万一四八〇円

甲一九、弁論の全趣旨によれば、原告は、電車を利用しておきつ整形外科に六六回通院し、電車賃として一日七八〇円を要したことから、その六六日分として五万一四八〇円を支出したことが認められるが、その余の交通費の支出分については、これを認めるに足りる的確な証拠がない。なお、友人の通院のための付添の必要性を認めるに足りる証拠もない。

4  文書費 一万三〇〇〇円

診断書代については、甲一三の1ないし3により認められるが、印鑑証明代については、これを認めるに足りる的確な証拠がない。

5  メガネ代 五万五〇〇〇円

甲二〇により認められる。

6  休業損害 二一五万三四六六円

甲二の1、2、二二の1、弁論の全趣旨によれば、原告は、本件事故当時、勤務先会社にアルバイトとして勤務し、本件事故前年の平成五年度に四八五万二〇一九円の収入を得ていたものであるが(なお、本件事故前年における原告の実稼働日数及び歩合給の計算根拠については、これを認めるに足りる的確な証拠がない。)、これを三六五日で除した一日当たりの収入は、一万三二九三円(一円未満切捨て)となるところ、本件事故により事故日から平成六年一二月二一日までの一六二日間(入院一七日、通院実日数一四五日)の休業を余儀なくされたものであるから、その間の原告の休業損害は、右金額となる。

7  慰謝料 一三〇万〇〇〇〇円

原告の傷害の部位程度、入通院期間、その他、本件に顕れた一切の事情を総合斟酌すれば、原告の慰謝料は、一三〇万円と認めるのが相当である。

8  右合計額 五二六万九二七四円

三  過失相殺

前記一2記載の過失割合に従い、原告の損害額から一五パーセントを減額すると、残額は、四四七万八八八二円となる。

四  損害の填補

原告が自賠責保険から二六万八一六〇円の填補を受けたことは、当事者間に争いがなく、甲二一、乙八の1、2によれば、これとは別に、原告は、自賠責保険から六九万一八四〇円(自賠責保険金合計九六万円)、労災保険から療養補償給付、薬剤費として九八万二三八八円、休業補償給付として九一万三三六五円(労災保険金合計一八九万五七五八円)の支払を受けたことが認められるから(右填補額合計二八五万五七五三円)、右填補後の原告の損害額は、一六二万三一二九円となる。

五  弁護士費用

本件事案の内容、審理経過及び認容額、その他諸般の事情を総合すると、原告の本件訴訟追行に要した弁護士費用としては、一五万円と認めるのが相当である。

六  認容額 一七七万三一二九円

第四結語

以上によれば、原告の本件請求は、一七七万三一二九円及びこれに対する本件事故の日である平成六年三月一一日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるが、その余は理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条本文を、仮執行宣言につき同法一九六条一項本文を、それぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 河田泰常)

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